エッセイ

独り

肝の小さい、根性のまったくない男である。 危険のあるような場所には近づかないし、恐ろしいものがいるかもしれない所には、決して足を踏み入れない。虫、動物、怖い人、オバケ幽霊、みんな会いたくない。 ただ家にいるだけで私は、充分満ち足りている。 ...
エッセイ

偏旁冠脚

知らない。 少なくとも現在の記憶のなかには、まったく存在していない。 学習していないと思っている。習ってない、教えてもらっていない。 つまり人のせいにしているわけだ。  漢字の話である。 つきへんとにくづきは知っている。にくづきは体の器官な...
エッセイ

潮の香のかすかにからむ青田風

古いUSBメモリーを開く。 仕事で作成した書類のフォルダーがたくさん残っている。それらに紛れて、個人的な文書を記録したものもあった。先日公開した短編小説『井戸』は、ここで見つけたものだ。私はすっかり忘れていた。存在も書いたことも。 同じよう...
小説

井戸

「ひぃやぁー」妻の久代が叫んだ。「どないしたんや」 幸一は運転席のドアを開けたまま慌てて駆け寄る。「えっ。水に落ちたような……」 言いながら久代は、恐ろしいものでも見たような顔をしている。血の気がない。 幸一はしゃがんで妻の足を見たが、まっ...
エッセイ

自業自得

妻と共通の友人の母親の通夜に行く。最後の別れに顔を拝見した。穏やかな表情だ。 ご遺体は2段ほど上がった先に安置されていたが、私は階段を下りるのが苦手だ。思わず妻の手をとった。お気をつけてと声をかけてくれた友人の長男に対して、妻は応える。「こ...
はじめに

表記について

横書きで書いているが、ものによっては縦書きのままのものもある。 もちろんここに載るのは横書きだから、それに見合った体裁に変えるべきなのだが、最初のころはよくわからなかったので、縦書きのまま放置しているものがあるのだ。 全文削除して書き直すの...
エッセイ

845

収集癖はない。 小学校低学年で郵便制度と前島密について習った。それがきっかけになり切手収集を始める同級生はいた。私も数年集めたが、長くは続かない。 面倒なのは嫌いだ。というより集めることは面倒だ。 遊び友だちのなかには、メンコ(関西弁ではベ...
エッセイ

鎮魂歌

9日か10日だった。 私は神戸でKと会っていた。喫茶店のはしごを何軒かする。ビートルズの曲、ジョンレノンが1日中流れていた。 1980年12月8日、彼は殺された。 私たちは大学生だった。 先日Kが来たのは、昨年亡くなった母のお参りをするため...
エッセイ

コワい

想像するしかない。きちんと確かめることはできない。 それこそ日本史にも頻繁に登場する怨霊の話である。そもそも肉体を離れて精神は存在できるのだろうか。誰かを恨み害したいという意志は、それのみで存在するだけではなく、実際当事者、相手方に憑依する...
小説

一撃 1

1 午前2時を過ぎていたから、とうに日付が変わって9月19日になっていた。 近畿に接近していた台風は、急に東海洋上に去ったので直撃は免れたが、風は依然として強く、雑木林を騒がせていた。 大介は、ハンドルを握り締めて、ライトに浮かぶ山道に目を...