独り

エッセイ

 肝の小さい、根性のまったくない男である。

 危険のあるような場所には近づかないし、恐ろしいものがいるかもしれない所には、決して足を踏み入れない。虫、動物、怖い人、オバケ幽霊、みんな会いたくない。

 ただ家にいるだけで私は、充分満ち足りている。 

 基本どこにも行かないが、とくに未知の場所には行きたくない。

 それなのにというか、だからこそなのか、サバイバルものの動画は好きだ。よく見ている。

 ディスカバリーチャンネルのエド・スタッフォードは凄い。

(もちろん私は会員ではない。無料で楽しんでいる。根性もないし金もない)

 極寒の場所は別だが、ふつう裸でいる。武器も食料も水さえ携帯しない。それに機材は自分で持ち、みずから撮影する。サバイバルの間は独りっきりである。

 リスクというか、命の危険はかなり高い。人を襲う動物がいるし毒蛇毒虫もいる。

 たいてい目的が設定されている。歩きで何日もかかる村やゴールを目指す。

 水を手に入れ火をおこし、昆虫などを捕食して栄養とする。

 サバイバル、人が生き残るということは、正にこういうことだと思う。

 そしてもし、私がこの場に放置されたら、きっと1日も生きられない。

 エドほど過激ではないが、ほかに2人、外で活動する日本人のユーチューバーの動画もよく見ている。サバイバルものとは違うかな。

 1人はエスケステロンさんである。この人はそれほど長期間そとで過ごさない。2泊から3泊までだろう。軍幕、軍隊用のテントを愛用し、必ず酒を飲んでくれる。誰もいないところで独り、好きなように酒を飲むのは楽しいだろうなと思う。姫貝の干物などのツマミに凝っているところも嬉しい。冬は日本酒を出汁割にする。

 移動はおおむね徒歩なので、それほど大きな荷物は持てない。必要最小限で森に入っていく。もちろん人のいない深い森である。

 もう1人はCartopboaterNORAさんである。魚釣りをするために、外で過ごしている。

 名は体を表すというが、車の上にボート(カヌー)を積んでいるNORAさんである。NORAはきっと野良犬とか野良猫とかと同じ野良だろう。自嘲的謙遜的表現だ。

 この人は相当、魚釣りが上手い。鱒レンジャーという細めの竿で、怪魚アカメまで仕留めている。アカメがいるのは高知県なので、高知在住だろう。

 遠くに灯は見えるものの、独り誰もいない小さな無人島などで、夜を明かしている。海上に舟を浮かべて何日か過ごしたときはびっくりした。NORAさんは酒を飲まない。そのぶん甘いもの好きである。甘いココアやレモネードを大量に飲みほす。とても美味しそうに。餡子も好きだ。

 2人に、いやエドも含めよう。この3人に共通するのは豪胆さである。肝が太い。

 夜も闇も、恐れるそぶりさえない。むしろ楽しんでいる。

 2人には、あまり危機的状況は訪れないが、エドは危機のパレードに会っている。危機そのものは命の危険を孕んでいるし……。

 エドには、途方もないギャラが支払われているとは思う。

 しかし、命あっての物種という。多額のギャラだけで引き受けられる仕事とは思えない。

 それを引き受け、目的を達成しているのは、強靭な意志とサバイバルに対する軍隊仕込みの豊富な知識経験のおかげであるし、そもそもサバイバルが好きなんだとも思う。

 旧約聖書では神の最初の言葉は「光あれ」だそうだ。光がなければ何も見えない。

 光のない深海に住む生物はいるが、地球上の生命のほとんどは、白日の下で生きているだろう。

 基本、何も見えない暗闇の世界は恐ろしい。どんな敵が潜んでいるかわからない。

 起きているならまだしも、3人はそれぞれ、この暗闇のなかで眠るのだ。気持ちよく眠れましたなどという。

 どれほど豪胆か。

 しっかり鍵のかかる家だから、私は眠れる。灯もあるし……。

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